書評コーナー REVIEWS

CDで聴く! 音楽療法のセッション・レシピ集 即興演奏ってどうやるの

著者 野村誠 片岡祐介
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ピアノの先生のための情報誌「LPOレッスン・プラス・ワン」Feb,2005 第71号
楽譜専門卸の(株)松沢書店が発行する情報誌です
もうすぐ新学期! 今のうちに読んでおきたい書籍特集
いま生徒さんはピアノ・レッスンに何を望み、指導者はそれにどんなアクションを起こすことができるのでしょう?

大人も子どももストレスを抱える今、ピアノレッスンにも「癒し」の要素が切実に求められています。時にはいつものレッスンはさておき、一緒に音楽で遊んでみたり、ただただ楽しませてみたり……。そんな時に重宝するのが本書。もともとは音楽療法の技法のひとつである「即興演奏(対象者との音楽を使ったコミュニケーション。相手の反応に合わせて、臨機応変に音楽を作っていくこと)」のための書かれたものですが、ピアノレッスンにも応用できるアイデアが詰まっています。

中でもおすすめなのが、第1章の「なんちゃって音楽」。「なんちゃってアフリカ」「なんちゃってアニメソング」「なんちゃって癒し系」「なんちゃってショパン」など、わずか数小節の中に、それらのテーマを見事に表現した音楽が、CD音源・譜例つきで35曲収録されているのです。それらは実に個性的かつ魅力的で、子どもの心をつかめること間違いなし! 一緒に弾いて(またはCDを聞かせて)その反応を見ることで、生徒さんの好みを探る手がかりにもなりますし、音楽劇などの効果音として使うのもオススメです。

『教育音楽・小学版』(音楽之友社)2005年1月号 p.88
とっておき! 私のお役立ちソフト
子どもと共に「音楽する」アイデアが満載!
CD活用法「『なんちゃって○○』35!」(自作ワークシートを使って)

「なんちゃってアフリカ音楽♪」
「なんちゃってサスペンス♪」

CDが始まるや否や音楽室は笑いの渦。野村さん、片岡さんコンビがつくり出す巧みな言葉と音・音楽の世界に、子どもたちがぐんぐん引き込まれていきました。

1トラックが10秒~10数秒。そんな短い即興演奏の中に「○○音楽」の本質が込められているからたまりません。次から次へと流れてくる音・音楽に「次は何かな?」とわくわくしながら子どもたちが聴き入ります。「『なんちゃって○○』35! きみは、どの音・音楽がおもしろい?」(本CDおよび自作ワークシートを使った聴取活動・音楽の授業)は、あっという間の1時間でした。

60人(この日、突然2クラス合同の授業になってしまったのです。どうなることやら不安でいっぱいでしたが……)1人残らず自分の耳で(音に対する価値観をもって)、35曲の聴取活動に夢中になって取り組んだ子どもたちの声を、いくつか紹介しましょう。

〈子どものつぶやき〉
・ひとつの曲が短くってあきない。いろいろあってたのしい。もっとほかのもきいてみたくなった。(大輝くん)
・おもしろいの、わかんないの、変なの……初めて聴く音楽がいっはいあった。自分で弾いたりできるっていいな。私も自分の曲つくってみたい。(彩さん)
・いろんな音楽の形があるんだな。私は、歌う声も言葉もおもしろいって感じたし、「なんちゃって」がやっぱりいい。他の曲ももっときいてみたい。(はるかさん)
・この世には、こんなにいろんな音や音楽があったのかとビックリ!(大地くん)
・私はボサノバが気にいった。(未優さん)
・ぼくは、ピアノの曲がすき。野村さんってすごい人みたい。(紀仁くん)

授業では、この「CDで聴く書籍」の第1章の部分だけをアイデアとして使ってみたのですが、ほかにも第2章「即興演奏のためのアイデア集」、第3章「即興セッションのためのヒント集」、第4章「セッションのエピソード集」など、音楽療法だけではなく、普段の授業でも使えるアイデアが満載です。

★子どもと共に「音楽する」2人の芸術家

「子どもは失敗するから、技術がないからこそ試行錯誤ができる。知識がないからこそナンセンスなことがいえる。こうしたことが、共同作曲の燃料になっている。」(野村誠「野村誠と子どもたちの共同作曲」、佐藤学・今井康雄編『子どもたちの想像力を育む』東京大学出版会、p.281より抜粋)

目の前の子どもたちの持てる力で楽しめる音楽、子どもたちのナンセンスから出発する音楽……子どもたちの音楽に音楽の本質を加え、「子どもと共に音楽する2人の芸術家」(もちろん子どもたちだけではない多くの人々と音楽するお2人ですが)の大きな存在を実感せずにはいられないのが、この「CDで聴く書籍」です。

山形県山形市立鈴川小学校教諭  東海林恵里子

●片岡氏のサイトにこの誌面の画像があります。

ピアノ音楽誌『ショパン』(No.252 2005年1月号 Junuary)本文p.134
「BOOK REVIEW」より
 岡崎香奈 ●洗足学園音楽大学音楽療法コース助教授

音楽療法士に必要な臨床的音楽能力のひとつに「即興を臨床的に使いこなす技法」がある。これは、クライエントの瞬間的反応に対してどれだけ臨機応変に音楽的な介入を展開させていけるか、という能力である。これは、たんに楽器を弾く技術上のことではなく、相手とどのように「生きた音楽空間」を作り出していけるか、ということと密接に関わっている。

CD付きのこの本を書いた著者たちは、私が心から敬愛するふたりの音楽人である。ここで彼らを音楽家でなく音楽人と呼ぶには、私なりの理由がある。人間は、地球上のどこにいても自分の祖国と生育環境とを融合させながら固有の自己アイデンティティを形成するように、彼らはある意味音楽という祖国に生まれ、各々の自己アイデンティティを音楽と共に形成している人種である、といっても過言ではないと思う。つまり、彼らが生きている在りようそのものが「音楽」なのである。彼らはいつも何か新しい音楽的発見をしてワクワクしている。そして、常に大まじめに思いっきり音楽で遊んでいる。彼らが音楽人として他のミュージシャンと音楽活動をするように、たまたま相手が障害者や病者であったというだけで、この本に記してあるヒントは音楽療法セッションのみならず「音楽する」行為すべてに共通すると思われる。そもそも、音楽には「療法用」や「演奏用」などとジャンルが分かれているわけではない。音楽は音楽なのだから。

書評めいたことを少し書くとすれば、第1章の『なんちゃってシリーズ』は面白い。短い例題の中にも重要なエッセンスがじっくり煮込んであり、とても勉強になった。第2章の『アイデア集』や第3章の『ヒント集』などは、シンプルなようでいて実は「目からウロコ」体験のような、鮮度の高い発想の転換術を提案してくれる。第4章は実際の『セッションのエピソード集』なので、それまでのいろいろな例題が実践的に使われている様子が紹介されていてわかりやすい。

重要と思われることは『音楽療法セッション・レシピ集』と書いてあるからといって、これが『即興演奏のマニュアル本ではない』ということを読者がきちんと理解しておくことであろう。上記にも書いたように「どのような音楽空間を創り出すか」そして「音楽空間をいかに生きるか」ということがもっとも価値ある行為であるため、このふたりの音楽人から感じ取られる「音楽空間」を心身でしっかりと受け止め、読者各々が特有な音楽的自己アイデンティティを創り出していく糧として、この本を活用されることをお薦めしたい。

●片岡氏のサイトにこの誌面の画像があります。

『教育音楽・小学版』 (音楽之友社、2004年12月号) 
「New Books」より
「即興演奏の核心をいたってシンプルに」

即興演奏といえば、これまでに一度だけやった?ことがある。はじめての育児に疲れきっていたころだ。泣きわめく赤ん坊に、なかばヤケクソ気味に「特製でたらめソング」をメドレーで歌ってみると大成功。ご機嫌になった。味をしめて次男のときも名前部分を変えて歌いまくった。音楽って役立つなあと思い知った。

2003年のいずみホールのガムラン〈マルガサリ〉公演で、奇想天外で楽しい新曲を発表してくれた作曲家・野村誠さんと、打楽器奏者で作曲家、音楽療法を研究する片岡祐介さんが作った本書では、即興演奏とは特殊な技能を要する芸術というよりも、日常に有効に使えるワザなのだと教えてくれる。この本は自閉症やさまざまな障害者、患者の方々への音楽療法、あるいは子供たちを対象としたワークショップのメニュー集として編まれているのだが、それ以外の状況へも応用可能。もちろん実践しなくても読み物としても痛快だ。音楽でコミュニケーションしたいよう、どうやってする? こうしたら? という熱意がページからあふれでてくる。

付属CDも愉快。“こうやったら、それらしく曲ができる”いう秘訣大公開の「なんちゃってアラビア音楽」「なんちゃってモーツァルト」「なんちゃってスティーブ・ライヒ」「なんちゃってユーミン」など全35パターンは、実際に聴くと抱腹絶倒。

そういえば、小学生になった息子たちが、ときどきあの「特製でたらめソング」を懐かしがるようになった。即興演奏はその場のコミュニケーションに威力を発揮したらさっさと消えていくが、ひょんなことで生き残ったものが古典?になることもあり、親密な思い出を呼び起こしてくれる。有名曲にはないオーダーメイドの醍醐味だ。さあこの本片手に、いろいろな即興演奏に挑戦してみよう。

『イントキシケイト intoxicate 』 vol.52(2004. October)
[注:『intoxicate 』は、「タワーレコード」の音楽情報誌です]
「読む茶の間 reading lounge」より
「音楽は実践あるのみ」

老人ホームでは老人たちと、学校では子供たちと、どこかの会場では楽器を持って集まった人なら誰でも、ともかくその場にいるひとと「作曲」をし、音楽を立ち上げてしまう野村誠と片岡祐介。二人が「なんちゃって」という一語をくっつけて、あらゆる音楽を「それなりに」即興するやり方を教えてくれる。ちょっとした遊びとして、あるいは、遊びそのものが教育として、音楽が生まれてくる。一見あまりにラフなのだが、どこかで本質を突いている。そう、音楽は何よりも実践、音楽は実践あるのみ、ってことか。(小沼純一)

朝日新聞 名古屋本社版 2004年10月6日(夕刊)
(9月22日付「書評」のつながりで、著者の片岡祐介さんの近況が紹介されました。)
「近況心境」より 「即興で広げる音の世界…打楽器奏者・作曲家 片岡祐介さん(35)」

演奏の冒頭、打楽器奏者と紹介されたはずだった。しかし、楽器に触れず、歌って踊ってばかりいたら、演奏後、自分をコメディアンと確信して感想を語る聴衆も。「音楽の流れに合わせ、どんな表現も使います」

そんなプロもアマも加わる即興演奏を、愛知県や岐阜県の施設や学校で続ける。ノウハウを共著「即興演奏ってどうやるの」(あおぞら音楽社)で形にしたばかりだ。

愛知県豊橋市出身。東京音大で学び、在学中からスタジオ録音中心に活動した。呼ばれた日に自分のパートだけ録音する仕事に疑問を感じていたころ、岐阜県音楽療法研究所に誘われ、97年から00年まで勤めた。

当初からライブで聴衆に楽器を渡し、即興・参加型を試みたが、手応えを感じたのは岐阜へ来てから。太鼓の上でばちを転がし、飛び上がって「フー」と叫ぶ障害者の表現に目の覚める思いがした。「表現の幅が広がった。楽器は型どおりに弾けば美しく響くが、音楽の領域は狭くなると気づいたんです」

31日には、岐阜県本巣市で地元楽団のために書いた新作初演をする。インドネシア宮廷音楽「ガムラン」の楽団で、ミュージシャンの由紀夫人も参加している。「知っている西洋の技法が全然使えない」。仕上げに苦労しつつ、また一つ音の世界を広げた実感を楽しんでいる。

●片岡氏のサイトにこの誌面の画像があります。

京都新聞 2004年9月27日(夕刊)
「家族の本棚」より

人が集まる場で、すぐに音楽をつくり出す即興音楽は、でたらめのようでいて、方法論と、具体的なやり方があるという。

そのアイデア、ヒント、エピソードなどを初めて紹介する本。大事なのは型ではなく、そこにいる相手との関係だと、九〇年代から路上や音楽療法の場などで即興音楽を手がけてきた二人の著者は言う。

付属CDの、民族音楽からユーミンまでをパターン化した三十五種類の「なんちゃって音楽」が楽しい。音楽教育や音楽愛好家、そうでない人でも楽しめる。
(あおぞら音楽社・二五〇〇円)

朝日新聞 名古屋本社版 2004年9月22日(夕刊)
「本棚」より 「無から有への方法論」

即興演奏という言葉で普通思い浮かべるのは、ジャズやロックのアドリブだろう。これは鳴っている和音により使える音階が決まっていて、自由なようでかなり厳格な規則に従っている。が、本書で触れられている即興演奏は違う。和音もリズムもないゼロの状態から、プロもアマチュアも一緒に音を作り上げていくというものだ。

後者の即興を曲作りに用いる名古屋出身の作曲家・野村誠と、野村と豊富な共演経験がある打楽器奏者の片岡祐介が記す方法論。中国風やドビュッシー風など音造りのパターンに始まり、「意表をつく」「気になる人に寄り添う」など、心構えや哲学に踏み込む。

その心は、せんじ詰めれば周りの音を聴くことと、共演者と心を交わすことに集約される。作り手と聴き手の乖離(かいり)が叫ばれて久しい音楽のあり方にも一石を投じている。
(あおぞら音楽社・2500円)

●片岡氏のサイトにこの誌面の画像があります。