書評コーナー REVIEWS

歌って気づく!フレイルと認知症 音楽療法で口から診断・予防します

著者:甲谷 至
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日本音楽療法学会誌 19巻/1号 2019年(2019年6月)
評者:関谷 正子 (NPO法人カーサ)

本書は、歯科医師・口腔専門医として、また音楽療法士としての長年の臨床経験を持つ甲谷至氏の執筆によるものである。著者は知的障がい者、脳卒中後遺症者、脊髄・頚髄損傷者などの歯科治療、口腔リハビリテーションを行う中で、歌うことの有効性を重要視し、さらに研究を続けている数少ない歯科医師である。

2008年に刊行した著書『歌うことが口腔ケアになる』は歯科医師ならではの視点から書かれ、臨床現場における音楽療法士は勿論のこと、施設の介護職や音楽療法を学んでいる多くの方々には理解しやすく、実践を試みたいと思わせる非常に興味深い内容となっている。

このたび、前著に続き刊行された本書は、「歌って気づく!フレイルと認知症」と題し、ダイジェスト編 ・基礎編 ・ 実践編の三部で構成されている。 表紙を捲ると「音楽療法士のための口腔機能評価法」が最初に目に入る。日常生活で何気なく歌うこと、話をすることなどの口の動きが認知症の評価につながり、予防へと発展していく。

歌を歌うことは脳や身体に良い影響を及ぼすことはすでに承知されていることであるが、本書はその背景について理解しやすいイラストとともに描かれている。

ダイジェスト編では多くの音楽療法士が直面する疑問を音楽療法士と著者とのやり取りから、歌うことの意味と効用を身体機能の側面、認知面、社会面、心理面から説明をしており、口の働きが全身の健康に重要な役割を果たしていることを改めて認識させられた。

基礎編では、2018年4月より「口腔機能低下症」が医療保険の適用となったことが記されている。「口腔機能低下症」は7項目の診断基準が設けられ、これに対応する検査は、「音楽療法士のための口腔機能評価法」の検査と観察の部位が同じであり、同じ目的で実践していることから音楽療法との相互関係が理解できる。

音楽療法を実践する音楽療法士にとって常に評価方法は頭を悩ます問題である。多くの音楽療法士が日々、実践の中で行っている歌唱、音楽鑑賞、身体活動や日常の些細な会話が、健康を測定するバロメーターになっていることに気づかせてくれる評価方法である。認知症や身体機能を評価することで個々の目標の改善や活動の向上につながるものと考える。評価について一歩前に踏み出す一冊になると期待している。

実践編では、歌う口腔トレーニングとし、前半を「歌う口腔リハビリ練習曲・歌謡曲」、後半を「歌う喉頭挙上のための練習曲」に焦点を当て、ここでもイラストを交えながらわかりやすく示されている。最後の「お口いきいき健康体操」は日常何気なく行なっている顔や口の表情が健康に役立っていることや、唾液の分泌等目に見えない生理的効果においても理解を深めることができる。

私が住んでいる地域の地方新聞では今年度から「みんなでフレイル予防」と題して月1回の連載が始まった。

執筆者には歯科医師も加わるとのことで、さらに口腔ケアの重要性を感じることができた。

今後、全国的に広がるフレイル予防のためにも、多くの音楽療法の臨床現場はもとより、介護予防事業での音楽療法実践書として本書を推薦する。