書評コーナー REVIEWS

根岸由香のつながる音楽 社会性を育てる75のインクルーシブな音楽活動

著者:根岸由香
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日本音楽療法学会誌 20巻/1号 2020年
評者:大崎 祐子 (青森県立八戸第一養護学校)

本書は、筑波大学附属大塚特別支援学校教諭で、日本音楽療法学会の代議員を務めておられる根岸由香氏が、「共に響き合い、心をつなぐ活動」めざし、ふだんの授業、集会や行事、普通学校との交流および共同学習の場などでの実践を通して、子どもたちと一緒に「表現のやりとり」をしながら育まれた約30年課間の音楽活動の歩みを記した実践書である。私もこの本を待ち望んでいた一人である。今から10年ほど前、地元八戸において根岸氏のセミナーに参加させていただいた。それ以来、「いつか大塚特別支援学校に行って実際に授業を見てみたい!」という思いは募り、2013年夏、ついに念願かない、公開講座参加というかたちで実現した。根岸氏のオリジナルソングの効果的な導入と、指導者がチーム一体となり、子どもたちを支え巻き込んでいく授業スタイルは、音楽療法の考え方を授業に取り入れ始めた当時の自分にとって大変衝撃的で、今でも授業を組み立てる際にはさまざま参考にさせていただいている。

本書に掲載された75曲すべて、特別支援学校の中で、子どもたちと一緒に活動しながら根岸氏が創作されたもので、「子どもたちにこんなことを身につけてほしい」という「願い」と「目的(ねらい)」が込められている。それらを子どもたちにわかりやすく伝えるために、「目的(目標)とする行動」をそのまま歌詞にした「オリジナルソング」の創作、「つながる」ことを可視化した「つながり教材(手作り楽器など)」の開発、「かけ声」や「ポーズ」を取り入れた動きの工夫と「主役経験」の設定など、さまざまな工夫や意図が組み込まれた楽曲となっている。

本書の構成は、はじまり編、つながり編、やりとり編、身体を使おう編、歌って踊ろう編、表現しよう編、みんなで歌おう編、クールダウン編と、8つのセッションから成り立ち、それぞれの曲に主目的、副目的、かかわりの工夫、主にアプローチされる感覚、楽曲や授業形態の概要が記されている。楽譜とともに、イラストも描かれ、大変見やすくわかりやすい情報量と感じた。さらには付録のDVDには、ピアノ伴奏譜や、「こんなふうな活動になります」といった実践例を大塚特別支援学校の教員たちが指導者と子ども役に扮して撮影された動画が収録されている。普段からチームで取り組まれておられるからこそ、本当にわかりやすく、楽しい雰囲気が伝わってくる貴重な映像である。本編と映像の随所にわたり、根岸氏の子どもたちをねらいに導くための惜しみないさまざまな工夫と、大塚特別支援学校の「チーム力」を感じずにはいられない一冊である。

根岸氏はこうもおっしゃっている。「この75曲にこめた『願い』や『目的(ねらい)』は、子どもたちに直接トレーニング的に課するものではなく、みんなと一緒に聴いたり歌ったり演奏して音楽の楽しさを感じる中で、自然にその目的が達成できることが肝心と考え、創意工夫を続けている」と。

「指導者(支援者)の間の連携を密にしながら、協力して実施していくことをお勧めします」と巻末で述べられており、まさに関わる大人が一丸となって、音楽で子どもたちを育てるという共有した志の大切さをお示しくださった著書である。

2020年5月、私がこの原稿を描いている現在、新型コロナウイルス感染拡大を考慮し、我々の以前と同様の音楽活動は難しい現状となっている。根岸氏がこの著書でお示しくださった「音楽で子どもたちを育てる」という、音楽だからこそできる役割を、どうか教育・保育の現場で見失わず、新しい生活スタイルの中でも担っていきたいものである。